小松の親分さん、ありがとう
「センキュー、センキュー、本日はにぎにぎしくご来場、誠にありがとう御座居ます。大変、長らくお待たせをいたしました。あたくし、四畳半のザット・エンターテインメント、小松与太八左衛門でございましゅ~、センキュー、センキュー」…これは、1970年代に一大人気となったデンセンマン由来のコミックソング「デンセンマンの電線音頭(LPバージョン)」の冒頭で小松政夫さんが扮する司会の小松与太八左衛門による名文句だ。
デンセンマン自体は1976年放送のバラエティ番組『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』内のコーナーから生まれた人気キャラクターで、漫画家の石ノ森章太郎先生によるキャラクターデザインと変身ヒーロー風のスーツアクターによる滑稽な歌と踊り、伊東四朗さんと小松政夫さんら「電線軍団」によるハイテンションな盛り上げ演出などによって当時は日本中のチビッコに絶大な人気を博した。コミックソング「電線音頭」は元々、わらべ歌「あんたがたどこさ」を元に落語家の桂三枝(現・桂文枝)師匠が考案した替え歌ネタで『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』の前番組『ドカンと一発60分!』内で歌われ、「桂三枝の電線音頭」としてレコード化もしたが、歌詞が下ネタ寄りで少々大人向けなこともあってかイマイチ人気が振るわなかったようで、今となってはヒット曲「デンセンマンの電線音頭」の元ネタとして当時を知る50代以上の世代とコミックソングマニアには有名なのではないか。
『ドカンと一発60分!』の頃から伊東四朗さんと小松政夫さんも番組に出演し、シングルレコード「桂三枝の電線音頭」のジャケット写真にもお二人の姿が出ており、楽曲内でも「本日はにぎにぎしくご来場、誠にありがとう御座居ます。わちき、四畳半のザット・エンターテインメント、総合司会の小松政夫でございましゅ~」と、LPバージョンの「デンセンマンの電線音頭」のように冒頭で小松さんによる司会セリフが入るのだが、この時点ではデンセンマンも電線軍団もまだ無いので「総合司会の小松政夫」として出ている。
1976年に発売されたシングルレコード版の「デンセンマンの電線音頭」では、小松さんによる司会セリフはなく、冒頭セリフと歌詞の1番を伊東四朗さん扮するキャラクター「ベンジャミン伊東」が歌い、2番を小松政夫さん扮する小松与太八左衛門が歌って、3番ではデンセンマン(声・俳優/声優の堀勝之祐さん)が登場して歌い、4番からスクールメイツのチビッコたちがメインで歌い、5番の歌詞で「一番好きなのはデンセンマン!」と歌って閉めるという歌詞共々チビッコ向けな構成となっている。デンセンマン人気で1977年には「デンセンマンありがとう」というLPレコードアルバムも発売され、LPバージョンの「デンセンマンの電線音頭」や「電線音頭 ~全国縦断編~」、「デンセンロック」などデンセンマンや番組に関連した楽曲が収録。小松さんはこのLPレコード内でも進行役の司会や楽しいお喋りのほか、何曲か歌を歌ったりもしている。また、『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』番組内のコント劇コーナー「悪ガキ一家と鬼かあちゃん」で小松さんは政太郎という生真面目少年役を演じ、伊東さん演じる母ちゃんに怒られたり、キャンディーズの3人が演じるラン助、スー吉、ミキ子らにいじめられたりもするが、政太郎は会話がシラケると突然「♪し~らけど~り~、と~んでゆ~く~、南のそ~ら~へ~、ミジメ、ミジメ~」と歌いだし、その歌が番組内で人気が出て「しらけ鳥音頭」としてシングルレコード化されたり、のちに怪鳥しらけ鳥という着ぐるみキャラクターが大々的に登場するまでに発展した。この「♪し~らけど~り~、と~んでゆ~く~、南のそ~ら~へ~、ミジメ、ミジメ~」という冒頭フレーズは、80年代ゲームセンターで一世を風靡したビル登りビデオゲーム『クレイジー・クライマー』のゲーム画面中でプレイヤーを邪魔するコンドルが登場する際にゲーム音のジングルとして流れ、当時「しらけ鳥音頭」はそれほど知名度があったことが伺える。
当時(1970年代後半)チビッコだった現50代以上の世代にとって小松政夫さんと云えば『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』に出てきた政太郎(悪ガキ一家と鬼かあちゃん)や小松与太八左衛門(電線軍団)のイメージが強いのである。キャンディーズが出ていたことも人気の要因の一つであるが『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』はDVD-BOX化されている。
2003年には、『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』を元にした『みごろ!たべごろ!ナントカカントカ』という謎のバラエティ番組が日曜日の早朝4時半~という異常な時間帯に放映されていた。拙者は当時、若者だった故に土曜の夜は御前様でそのまま日曜の朝に寝るダメな生活を送っていたので偶然にも初めて観たナントカカントカのインパクトは強烈で、初期のころは番組の冒頭と最後に、呉服姿のご老人に扮した小松政夫さんが屋外ロケで小ネタコントをしていた。番組自体の進行は金剛地武志さんが行い、基本的に「ウゴウゴルーガ」のようなシュールなギャグを交えたチビッコ向けの知育番組のようだったが、『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』から「悪ガキ一家と鬼かあちゃん」と「デンセンマンの電線音頭」のコーナーを当時の映像のまま挿入したり、チビッコが麿赤児さんに質問するコーナーがあったり、スナックを舞台に小松さんや金剛地さん、安部譲二さんなどが登場するコント劇「スナック野バラ」のコーナーがあったりして、変な物好きな拙者にとっては日曜の早朝からご褒美であった。つい先日、昔のVHSビデオテープをダビング整理したら『みごろ!たべごろ!ナントカカントカ』3回分ほど発掘したので懐かしんで観ていたところだった。
今日、出掛けにスマホの通知画面を見たらニュース速報で「俳優の小松政夫さん死去 78歳」とあって、ショックだった。ショックだったけど、真っ先に頭の中をよぎったのはデンセンマンで司会をする小松さんの姿だった。もちろん小松さんの偉業はこれだけじゃないけど、拙者の心の中にも小松与太八左衛門や政太郎、小松の親分さんなど小松さんのギャグはずっと生き続けるのであった。小松政夫さん、ありがとう。ご冥福をお祈りいたします。
ありがとさん、ありがとさん、
貴方のおかげで人生が、酷く楽しくなりました。
(有賀十三「デンセンマンありがとう」より)
【おまけ】
佐竹商店街の公式チャンネルに「あなたの町で電線音頭」ロケの貴重な映像がアップされていたでござる。
デンセンマン何処や?と思ったら商店街アーチの上で踊るデンセンマンがアツイ!
ていうか、佐竹商店街の公式チャンネルなんてあったんや…。(ご近所感)